彗星とは?

2013年2月  藤原隆男

彗星の起源

いまから46億年前,生まれたての太陽のまわりに残ったガス円盤には,水素 (H2), 水蒸気 (H2O), 二酸化炭素 (CO2) などの分子とともに,シリケイト (岩石質) やグラファイト (炭素質) などの塵が含まれていました。 さらに,太陽から離れたところ(現在の小惑星の軌道あたりよりも外側)では,水蒸気が低温のため塵にくっついて雪のようになっていたと考えられています。 この塵や雪が徐々に成長し,自身の重力によって固まって最初にできた天体は直径が数 km と見積もられ,微惑星と よばれています。 したがって,微惑星の成分は,太陽系の内側では岩石質(塵の固まり),外のほうでは氷質(雪と塵が混じったもの)でした。微惑星は,太陽系全体では1兆個ほどあったと見積もられています。 これらの微惑星が衝突・合体を繰り返して月〜火星サイズの原始惑星になり,さらに,太陽の近くでは地球型惑星 (水星・金星・地球・火星), 離れたところでは巨大ガス惑星 (木星・土星) や巨大氷惑星 (天王星・海王星) にまで成長したわけです。 当時 (1億年ほど経ったころ) の太陽系には,惑星に取り込まれなかった微惑星がまだたくさん残っていました。 これらの生き残った微惑星は,その後,木星や土星など重い惑星の重力で太陽系のはるか外縁部まではじき飛ばされ,惑星が回っている領域では徐々に減っていったと考えられています。

彗星は,太陽系の外縁部に飛ばされた氷の微惑星が,太陽系の内側まで帰ってきたものと考えられています。 彗星の軌道を調べると,ほとんどが放物線に近い細長い楕円軌道をもっています。 そのうち,周期が数百年以下のものは,海王星の外のカイパーベルトとよばれる領域から来ていて,軌道面は惑星の軌道面と近いものが多いようです。 いっぽう,周期が長いものはもっと外側のオールトの雲から来ています。 たとえば 10000 AU (天文単位*) あたりから来るものは,周期が数十万年もあります。 このような長周期の彗星は,軌道面も公転方向もまちまちであらゆる方向からやって来るので,オールトの雲は球状に分布していると考えられています。 一般に,彗星は太陽の重力に緩く束縛されているだけなので,木星や土星のそばを通過すると軌道が簡単に変わってしまい ます。 彗星の中には,こうして軌道が変えられた結果,二度と戻らなくなるものもあります。

最近,探査機を使って本体に接近したり,衝撃弾をぶつけて飛散した微粒子を回収したりして精力的に彗星を研究しているのは,彗星が太陽系誕生当時の物質 でできていると考えられているからなのです。

* 天文単位 (AU) … 地球の平均軌道半径を1とする単位。木星の軌道半径は約 5 AU, 海王星の軌道半径は約 30 AU。


太陽系外縁部
図 1.  太陽系の外縁部。 彗星は,カイパーベルトやオールトの雲からやってくる。


彗星の尾

彗星は太陽系の外のほうからやってきます。太陽から遠いときは,直径数 km の単なる小さい氷塊なので見えませんが,太陽に近づくにつれて表面が暖められ,水蒸気や二酸化炭素などのガスが秒速数百 m の音速で吹き出すようになります (まわりが真空なので,氷はいきなり水蒸気になります)。 また,ガスとともに塵も放出されます。 ガスと塵は四方八方に出るので,丸くぼんやりしたもの (コマ=髪の毛とよばれます) として見えるようになります。 毎年,何十個もの彗星が発見されますが,発見当初はたいていこのような状態です。 木星軌道あたりで発見されるケースが多いようです。

さらに太陽に近づいて地球軌道あたりまで来ると,もともと大きな彗星や表面が新鮮な彗星では,噴出するガスや塵の量が増えてきて,これらが太陽と反対側に流され,尾として見えるようになります。 彗星の尾は2種類あります。ひとつは,ガスが高速 (秒速数百 km) で流れる太陽風に引きずられてできる尾です。 ガス (水蒸気,二酸化炭素,メタンなどが主成分) が一部電離してイオンになり太陽風の影響を強く受けるので,イオンの尾とよばれます。 太陽の反対側にまっすぐ伸び,ガスに含まれる分子が発光して青や緑の光を出すので,写真では青っぽく写ります。 もうひとつは塵でできた尾で,ダストの尾とよばれます。 太陽光を反射して光るので白っぽく見えます。 塵粒子は,ガスとともに放出されたあと,ガスや太陽風からはほとんど力を受けないのですが,塵がじゅうぶん小さいと太陽の光の圧力を受けます。 この光圧のため,1個1個の塵粒子の軌道は彗星本体から徐々にずれてくることになります。 図3は,ダストの尾のようすを表したものです。 同時に放出された塵は,塵が受ける光圧の違いによって,図の白い線に沿って分布するようになります。 β の数値*は,塵粒子に働く光圧 (太陽と反対方向) を,塵粒子に働く重力 (太陽方向) で割ったものです。 目で見えるような大きさ (たとえば小麦粉の直径は 数十μm) の塵は,重いので β が小さく,彗星本体とほとんど同じ軌道を運動します。 いっぽう塵がじゅうぶん小さい (たとえば煙の粒子 0.1〜0.5 μm ぐらいの大きさ) と光圧が効いて β が 1 ぐらいまで大きくなり,塵粒子は徐々に速度を上げながら彗星本体から離れていきます。 尾として見える塵は,煙粒子ぐらいのサイズのものが多いようです。

彗星の軌道と尾   彗星の2つの尾
図 2.  彗星の尾は,太陽と反対側に現れる。ガス成分は,太陽風に流されてほぼまっすぐに伸びる (イオンの尾)。 塵の微粒子は,太陽からの光の圧力によってゆっくりと彗星から離れ,曲がった尾として見える (ダストの尾)。
  図 3.  本体から放出された塵粒子は,光圧に押されて徐々に彗星本体から離れていく。 同時に放出された塵粒子では,光圧を強く受ける (β が大きい) ものほど速く離れていく。

彗星がどれくらい明るくなるかを予測するのはたいへん困難です。 彗星が太陽に近づいたときにどれくらい活発にガスや塵を放出するかは,彗星本体の表面の状態によるからです。 ふつう,標準的な彗星に対する経験則を用いて明るさを予測しますが,何度も太陽に近づいた短周期彗星は,表面から新鮮な氷が失われているため,大彗星にならない傾向があります。 いっぽう,長周期彗星で太陽にあまり近づいたことがなく表面がまだ新鮮なものは,予想以上に明るくなる可能性があります。 とくに,太陽に近づいたときに本体が複数個に分裂すると,大量のガスや塵が吹き出て大彗星になることがあります。 過去の大彗星には,このように本体が割れたあと急速に明るくなったものがいくつかあります。

* β の定義は  β= (太陽の光圧による力) ÷ (太陽による重力) 。 塵粒子の β がちょうど 1 のときは,重力と光圧が打ち消し合うので塵粒子は太陽系の中を直線運動することになる。 β の値は,塵粒子の形と物質を仮定すると光の散乱 (ミー散乱という) の理論で計算できる。 それによれば,塵粒子が大きいうちは β は粒径に反比例する。 たとえば粒径が数μm (黄砂の粒子ぐらい) のとき β は 0.1 前後,粒径が光の波長 (0.5 μm 程度) と同じぐらいのとき β = 1〜2 (物質による) になる。 粒径が光の波長よりもずっと小さくなると,光が素通りするので β はかえって小さくなる。 ちなみに,1 μm (マイクロメートル) = (1/1000) mm 。

彗星の観測

彗星を見るためには,まず空が暗いことが条件です。 市街光がないところでは,肉眼で6等星まで (いちどに見えるのは空全体で2000個ほど) 見えますが,それに近いところで見るのが理想です。
彗星の明るさも,星と同じように等級で表されますが,拡がりがありますので同じ等級の星よりは見えにくいでしょう。 1等星よりも明るく,尾があって肉眼で容易に見えるような彗星は,10年に1回ぐらいしか現れません。 2〜3等より暗いときは,双眼鏡を使うのがいいでしょう。 天体観測用の7倍,口径50mmという明るい双眼鏡がベストですが,ふつうの双眼鏡でも十分使えます。 望遠鏡を使うときは,倍率を20〜30倍まで下げると見やすいでしょう。

写真撮影

20〜30秒以上の長時間露光 (バルブ撮影) ができるカメラ,三脚,暗い空が必要です。 肉眼で見るよりもずっと明るくカラフルに写ります。
感度は ISO 1600 程度の高感度に設定します。 カメラを三脚に固定し,絞りを開放にして20〜30秒ほど露出します。 市街光が強くて夜空が明るくなってしまうときは,露出時間を切り詰めないといけないかもしれません。
100ミリ程度の望遠レンズを使うばあいは,固定撮影だと日周運動で像が流れてしまいます。 ブレを抑えるためには,露出時間を10〜20秒にします。 日周運動を追尾する装置 (赤道儀) があると,もっと長時間の露出が可能です。

一般に,天体写真は露出不足のノイズっぽい写真になります。 空のかぶりの軽減や高コントラスト化などの処理を行うとますますノイズが目立つようになります。 これを避けるためには,まず同じ視野の写真を数枚撮影しておきます。 これらを Photoshop で重ねて合成すると,S/N が向上するのでノイズを大幅に軽減することができます。

おまけ


過去の大彗星 (Wikipedia)   いわゆる大彗星がまとめてあります。


探査機による彗星核の写真

リンク

国立天文台 | 彗星 … 彗星についての一般的解説
国立天文台 彗星観測ハンドブック2004 … 彗星観測のためのハンドブック,彗星物理入門など


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