地学教科書修正案
教科書のどこが問題なのか示すため, 現役教科書を添削してみた。
例に挙げるのは, 数研出版と啓林館の高校地学教科書だ。
ほとんどの専門書が潮汐力を誤って遠心力で説明しているので, 教科書が遠心力を使うのも無理からぬことだ。
しかし, アメリカ海洋大気庁では, すでに慣性力を使って潮汐力を説明している。
日本でも, 気象庁は2021年から慣性力を使っている。
教科書がいつまでも遠心力のままでは, 高校生がかわいそうだ。
何とかならないか, 日本の地学教育。
(追記 2022/03)
上記の出版社には, すでに問題点を指摘した。
教科書や資料集の改訂に向けて, 前向きに検討してくださるとのこと。
「地学」だけでなく「科学と人間生活」においても, 潮汐力の記述があれば, その説明には気をつけていただきたい。 > 各教科書出版社様
(追記 2023/04)
2023年に改訂された高校地学教科書で, 潮汐力 (起潮力) の記述が改められた
(→2023年用 地学教科書)。
数研出版 地学 2021年度用 (2018年改訂)
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数研出版 地学 p160 |
数研出版 地学 p161 |
- 並進加速度運動で現れるふつうの慣性力 (並進慣性力) を誤って遠心力と呼んでいるのが問題なので, 「遠心力」を「慣性力」に書き換えるだけで正しい記述になる。
- 図 65 (b) の白い矢印がちゃんと月の方を向いていなかったり, 図 65 (c) の青い矢印の大きさと向きが不正確であったりする
(矢印の先をつなぐと楕円になるはず) が, 定性的理解の妨げにはならないので許容範囲か。
啓林館 地学 2021年度用 (2018年改訂)
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啓林館 地学 p289 |
- まず, 「遠心力」は用語の誤用なので, 「慣性力」に書き換える必要がある。
- 「共通重心のまわりをそれぞれ回転している」の「回転」は間違い。
回転とは, 向きを変える運動のことだ。
「回転している」と書くと, 地球が公転とともに向きを変える回転系に乗っていることになる。
いっぽう, 潮汐力を考えるときは, 地球を回転 (自転) させず公転 (並進円運動) だけさせるのがふつうだ。
これは, 回転系に乗ると地球中心の遠心力が現れるので, それを避けるためだ。
地球の自転を止めていることを表すためには, 「回転」ではなく, 「公転」または「円運動」と書かなければならない。
- 「 遠心力 (慣性力) の大きさはどこでもほぼ同じである」と説明してあるが, 「ほぼ」は不要。 並進慣性力は一様な力なので, 大きさと向きはどこでも厳密に等しい。
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T. Fujiwara 2022/02, 2023/04