教科書・百科事典による潮汐力の説明 成績表


教科書や百科事典が潮汐力 (または起潮力) を正しく説明しているかどうか, ネット上で検索可能な事典を中心に調べた。 「遠心力」という語を使っている説明は ×, 地表と地球の中心での重力の差で説明しているものは ○ とした。


表. 教科書・百科事典による潮汐力の説明は正しいか

  教科書・百科事典 成績   備考
地学教科書 (数研出版 2021年度用) × 並進慣性力を「公転による遠心力」と書いている
地学教科書 (啓林館 2021年度用) × 月による引力と遠心力との合力で説明している
地学教科書 (啓林館 2023年度用) 重力の差による説明に改訂
The Feynman Lectures on Physics (1963) × 地球の中心では重力と遠心力がつり合う, と書いている。 地球を質点とするなら「遠心力」でも間違いではないが, 剛体に対して「遠心力」を使うと回転系に乗ることになる。 やはり「慣性力」とするべきだ。
Ross: Introduction to Oceanography (1995) 慣性力 (inertial force) を使って説明している。
Murray & Dermott: Solar System Dynamics (1999) × 並進慣性力を「大きさと向きが等しい遠心力」と書いている。
朝永振一郎編: 物理学読本 第2版 (みすず書房 1969) 重力の差で説明
天文学辞典 (日本天文学会 Web) 重力の差で説明
岩波 理化学辞典 (第5版 1998) 「大きさを無視できない物体に中心力が作用すると, 各点での力が異なるため, 重心に対して相対的な加速度を生ずるような働きがおこる.」と説明しているが, 中心力なら何でもよいというわけではない。中心力は重力でなければならない。
岩波 広辞苑 第6版 (2008) × 引力と共通重心のまわりの遠心力で説明
小学館 デジタル大辞泉 (2020) 重力の差で説明
小学館 日本大百科全書 × 引力と遠心力 (地球上のどの地点でも同じ) で説明
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 × 引力と遠心力で説明
Wikipedia "潮汐" × "潮汐" の中の項目「遠心力」で, 並進円運動を回転運動, 並進慣性力を遠心力と誤解している。 この項目は, 削除するか, 項目名を「慣性力」に換えて全面的に書き直すべきだ。
Wikipedia "潮汐力" 非回転系における潮汐力の式はよいが, 公転に乗った回転系における潮汐力の式が間違っている (係数 2 が必要)。 また, 回転系で現れる遠心力を間違って向心力と書いている。

表を見ると, 現状では遠心力を使った不適切な潮汐力の説明が蔓延していることがわかる。 由々しき事態だ。 10年後か20年後には, 潮汐力の正しい理解が普及していてほしいものだ。


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T. Fujiwara, updated 2022/08, 2023/05