超々入門相対論 (付録) ローレンツ変換と回転変換

2024年   藤原隆男


虚数の三角関数や双曲線関数の知識(大学の理系学部では習う)があると, つぎのように簡単にローレンツ変換を導くことができるので, 参考のために紹介しよう。 まず幾何学の「回転変換」から。 XY 平面で, 原点からの距離の2乗 \({x^2} + {y^2}\) を一定に保つ変換は回転変換だ。 距離一定の線を図で表すと円になる。 いま, 座標軸が図1のように回転すると, XY 平面上の点\( (x, y) \)の座標はつぎのように変換される。

\[ \begin{align} & x' = \:\:\: x\cos \theta + y\sin \theta \\ & y' = -x\sin \theta + y\cos \theta \\ \end{align} \]

rotation / 回転変換   Lorentz  / ローレンツ変換
図1. ユークリッド空間での回転変換では, 座標軸は図のように円に沿って移される。色を付けた部分の面積が θ の半分になる。   図2. ミンコフスキー空間でのローレンツ変換では, 座標軸は図のように双曲線に沿って移される。色を付けた部分の面積が η の半分になる。

いっぽう, ローレンツ変換では3次元空間に時間を加えた4次元の時空間 (ミンコフスキー空間という) を考える。 ローレンツ変換は \({x^2} - {(ct)^2}\) を一定に保つ変換だ。 この時空間での原点とある点のあいだの距離の2乗のようなものを「世界間隔」という。 ふつうの距離と違って時間成分の2乗の符号がマイナスになるように定義されている。 このため, 世界間隔は正になったり負になったりする。 正のとき世界間隔は距離的であるという。 負のとき世界間隔は時間的であるという。 また, 世界間隔 0 は光の運動に対応する。

ここで, 時間 \(ct\)\(i\)をかけて虚数にする, すなわち \(w = ict\) と置くと, ローレンツ変換で一定に保たれる量 (世界間隔) を \({x^2} + {w^2}\) と書くことができる。 これは, 回転変換のときの原点からの距離の2乗と同じ形だ。 したがって, ローレンツ変換は, 空間\(x\)と虚数時間\(w\)のあいだの回転変換として表せることになる。 このとき, 角度も虚数にするとうまくいく。 すなわち,

\[ \begin{align} & x'\, = \:\:\: x\cos (i\eta ) + w\sin (i\eta ) \hfill \\ & w' = -x\sin (i\eta ) + w\cos (i\eta ) \hfill \\ \end{align} \]

ここで, 虚数角度の三角関数が双曲線関数で表せることを思い出そう。すなわち,

\[ \sin (i\eta ) = \frac{{{e^{ - \eta }} - {e^\eta }}}{{2i}} = i\sinh \eta \]
\[ \cos (i\eta ) = \frac{{{e^{ - \eta }} + {e^\eta }}}{2} = \cosh \eta \]
これを使って虚数角度の回転変換の式を書き換えると,つぎのようになる。

\[ \begin{align} & x'\: = \:\:\: x\cosh \eta - ct\sinh \eta \hfill \\ & ct' = -x\sinh \eta + ct\cosh \eta \hfill \\ \end{align} \]

ところで, 速度が小さいときにこの変換がガリレイ変換に移行することから, 角度\(\eta\)と速度\(v\)とのあいだには

\[ \frac{{\sinh \eta }}{{\cosh \eta }} = \tanh \eta = v/c \]

の関係があることがわかる。 双曲線関数の公式 \(1 - {\tanh ^2}\eta = {1}/{{{\cosh }^2}\eta }\) より,

\[ \cosh \eta = \frac{1}{{\sqrt {1 - {v^2}/{c^2}} }} \]
\[ \sinh \eta = \frac{{v/c}}{{\sqrt {1 - {v^2}/{c^2}} }} \]

と書けるので, これらを使って虚数角度の回転変換の式を書き換えるとつぎの式が得られる。

\[ x' = \frac{{x - (v/c)ct}}{{\sqrt {1 - {v^2}/{c^2}} }} \]
\[ ct' = \frac{{ct - (v/c)x}}{{\sqrt {1 - {v^2}/{c^2}} }} \]

これはローレンツ変換である。 このように, 数学的には, ローレンツ変換を虚数角度の回転変換として表すことができる。 このローレンツ変換を実数の式で表すと, 図2のように座標軸が双曲線に沿って伸縮しながら移動する変換になる。



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T. Fujiwara, updated 2024/09