超々入門相対論 (3) E=mc2

2024年   藤原隆男

はじめに

アインシュタインの関係式とよばれている式のうち \( E = mc^2 \) (エネルギーと質量の等価性の式) は, 物理の式の中で最も有名な式かもしれない。 しかし, この式がどのようにして出てきたのか知っている人は案外少ないのではないだろうか。 この式を導くためには, 簡単な数学が必要だ。 ここでは, 直感だけに頼らず, まじめに関係式を導いてみよう。


世界間隔

相対論では, 時間と空間を合わせた4次元時空間 (ミンコフスキー空間という) を考える。 時間成分を第0成分, 空間成分を第1~第3成分とすると, 4元の位置ベクトルは \( (ct, x, y, z) \) となる。 時間成分に光速度 \( c \) がかけてあるのは, 単位を長さに揃えるためだ。 さて, ミンコフスキー空間における原点と点\( (ct, x, y, z) \) との間の距離の2乗に相当する「世界間隔」をつぎのように定義する。

\[ {s^2} = - \,{(ct)^2} + {x^2} + {y^2} + {z^2} \]

3次元空間での距離の2乗との違いは, 世界間隔では時間成分の2乗だけ符号がマイナスになることだ。 このように定義した世界間隔は, ローレンツ変換に対して不変に保たれる。 このような量をローレンツ不変量という。 とくに光の運動に対する世界間隔はつねに 0 になる。 ローレンツ変換は, もともと光速度不変の原理を満たすように決められたので, 世界間隔が不変に保たれるのは当然の帰結なのだ。

世界間隔 \( s^2 \) が負であるとき, 世界間隔は時間的であるという (図1 参照)。 このとき2つの点の間の移動速度は光速度以下になるので, 実際に粒子が移動することが可能である。 粒子の移動のあとを世界線という。 一方, 世界間隔が正であるとき, 世界間隔は空間的であるという。 このとき, 光速度以下の速度での2点間の移動は不可能なので, 2点は因果関係のない別々の点ということになる。 光に対しては, 世界間隔はつねに 0 になる。光の伝搬面が描く面を光円錐という。 図1 では, \( z \)軸を省略しているので, 光円錐は時間とともに変化する円に見えるが, 本当は時間とともに変化する球面だ。

図1. ミンコフスキー空間における世界間隔。 z 軸は省略してある。 世界間隔が時間的 (\( s^2 < 0 \)) であるとき, 2点を結ぶ世界線 (青線) は図のように光円錐の内側にある。 また, 原点からの世界間隔が一定である面は, 破線で描いた双曲面になる。

4元速度

さて, ある慣性系から別の慣性系への座標変換がローレンツ変換であった。 \( x \) 方向に速度 \( v \) で運動する座標系へのローレンツ変換の式を改めて書くと, つぎのようになる。

\[ \begin{eqnarray} ct' &=& \gamma \left(ct - \beta x \right)\\ x' &=& \gamma \left(x - \beta ct \right)\\ y' &=& y\\ z' &=& z \end{eqnarray} \]

ただし, 式を簡潔にするため記号 \(\beta = v/c\),   \( \gamma = 1/\sqrt {1 - {\beta ^2}} \) を用いた。

ニュートン力学では力学法則 (たとえば運動の法則 \( F = ma \) ) は, ガリレイ変換で別の座標系に移っても同じ形で成り立つ。 これは, ニュートン力学では時間がガリレイ変換に対して不変であるためだ。 ところが, 相対論では時間がローレンツ変換で変換されてしまうため, 時間微分を含む運動の法則は, そのままの形では成り立たなくなる。 そこでアインシュタインは, ローレンツ変換に対して力学法則が同じ形で成り立つように力学を書き換えるため, 速度や運動量のようなベクトルを4次元へ拡張すること, そのさい時間の代わりにローレンツ不変量で微分することを考えた。

いま, 原点から点 \( (ct, x, y, z) \) までを移動する質点を考え, その速度ベクトル \( \vec v = ({v_x},{v_y},{v_z}) \) を4次元化することを考えよう。 質点の運動の方向は任意とする。 (大学物理ではベクトルをボールド体 \( \boldsymbol v \) で表すことが多いが, ここでは高校に合わせて矢印記号 \( \vec v \) を使った。) さて, 位置ベクトルを時間で微分すると速度になるが, そのときの時間としてはローレンツ変換で不変である量を使うべきだ。 そこでアインシュタインは, 運動する粒子の内部の時間である固有時間 \( \tau \) を使うことを考えた。 世界間隔 \( {s^2} = - {(ct)^2} + {x^2} + {y^2} + {z^2} \) はローレンツ変換で不変だが, この世界間隔を粒子に乗った座標系つまり粒子を原点とする座標系で表すと \( {s^2} = - {(c \tau)^2} \) となる。 したがって,

\[ \begin{eqnarray} {(c\tau )^2} &=& {(ct)^2} - {x^2} - {y^2} - {z^2}\\ &=& {(ct)^2} - {(vt)^2}\\ &=& \left(1 - {\beta ^2} \right)\,{(ct)^2} \end{eqnarray} \]

ただし, \({x^2} + {y^2} + {z^2} = {(vt)^2}\) を用いた。 これより粒子内部の固有時間\( \tau \) と静止系 (粒子の速度が \( v \) に見える座標系) での時間 \( t \) の関係は, つぎのようになることがわかる。

\[ \tau = \sqrt {1 - {\beta ^{2}}} \:t = \frac{t}{\gamma } \]

固有時間はローレンツ不変量なので, 4元位置ベクトル \( (ct,x,y,z) \) を固有時間 \( \tau \) で割ったもの (正しくは微分したもの) はローレンツ変換に対して位置ベクトルと同様に変換されるはずだ。 これを4元速度という。 その成分はつぎのようになる。


\[ \left( {\frac{{cdt}}{{d\tau }},\frac{{dx}}{{d\tau }},\frac{{dy}}{{d\tau }},\frac{{dz}}{{d\tau }}} \right) = \left( {\gamma c,\gamma \frac{{dx}}{{dt}},\gamma \frac{{dy}}{{dt}},\gamma \frac{{dz}}{{dt}}} \right) = (\gamma c,\gamma v_x,\gamma v_y,\gamma v_z) = (\gamma c,\gamma \vec v) \]

最初の第0成分 \( \gamma c \) が4元速度の時間成分, 残りの第1~第3成分 \( \gamma \vec v \) が4元速度の空間成分だ。 空間成分は3成分あるが, まとめてベクトル記号で表した。 粒子が静止しているときの4元速度の成分は \( (c, 0, 0, 0) \) だ。 そして, 速度 \( v \) が大きくなると \( \gamma \) が大きくなるので, 4元速度の時間成分 \( \gamma c \) も空間成分 \( \gamma \vec v \) も大きくなるというわけだ。 しかも, 光速度で頭打ちになる普通の速度と違って, 4元速度はいくらでも大きくなれる。

ここで, 速度の時間成分というと奇妙に聞こえるが, 時間成分が大きくなるということは, 固有時間 \( \tau \) に対して静止系での時間 \( t \) が速くなること, つまり固有時間が遅れることを表している。 4元速度の時間成分は, 運動する粒子の内部での時間は遅くなるという, おなじみの時間の遅れを表しているのだ。

ところで, 4元速度の2乗 (時間成分にはマイナスが付くことに注意) を計算すると,

\[ - {(\gamma c)^2} + {(\gamma v)^2} = - {\gamma ^2}{c^2} \left(1 - {\beta ^2} \right) = - {c^2} \]

のようにつねに一定であることがわかる。 3次元の速度が速くなっても, 時間成分を入れると, 4元速度は一定に保たれるというわけだ。


4元運動量

ニュートン力学では速度に質量をかけた量 \( \vec p = m\vec v \) が運動量であった。 アインシュタインは, ニュートン力学と同じように4元速度に質量をかけたものを4元運動量と定義した。その成分は,

\[ ( {\gamma mc,\gamma m{v_x},\gamma m{v_y},\gamma m{v_z}} ) = ( {\gamma mc,\gamma m\vec v} ) \]

となる。 この4元運動量のうち, 空間成分 \( \gamma m\vec v \) が相対論における運動量 \( \vec p \) であるとした。 すなわち,

\[ \vec p = \gamma m\vec v = \frac{{m\vec v}}{{\sqrt {1 - {\textstyle{{{v^2}} \over {{c^2}}}}} }} \]

じっさい, 相対論での運動量をこのように定義すると, 質点系が外から力を受けないとき, たとえば質点どうしが衝突して速度を変えたり合体したりするときに全運動量が保存されることを示すことができる。 ベクトルの4次元化という数学的要請から定義した運動量であったが, 運動量保存則を満たす正しい定義であったわけだ。

問題は4元運動量の時間成分 \( \gamma mc \) だ。 アインシュタインは, 4元運動量の時間成分に \( c \) をかけた \( \gamma mc^2 \) がエネルギー \( E \) ではないかと考えた。 なぜなら, \( \gamma mc^2 \) を展開すると,

\[ \gamma m{c^2} = \frac{{m{c^2}}}{{\sqrt {1 - {\textstyle{{{v^2}} \over {{c^2}}}}} }} = m{c^2}\left( {1 + {\textstyle{1 \over 2}}{\textstyle{{{v^2}} \over {{c^2}}}} + \cdots } \right) = m{c^2} + {\textstyle{1 \over 2}}m{v^2} + \cdots \]

のように第1項に \( mc^2 \) という定数を含むものの, 第2項はニュートン力学の運動エネルギーに一致しており, 全体でエネルギーを表すと考えられるからだ。 そこで, 運動量の時間成分 \( \gamma mc \)\( E \over c \) と置くと, 4元運動量は

\[ \left( {\gamma mc,\gamma m\vec v} \right) = \left( {{E \over c},\vec p} \right) \]

と書くことができる。 ところで, 4元速度の2乗は定数 \( -c^2 \) なので, 4元速度に質量 \( m \) をかけた4元運動量の2乗は \( -m^2 c^2 \) になるはずだ。 すなわち,

\[ - {{{E^2}} \over {{c^2}}} + {p^2} = - {m^2}{c^2} \]

これより,

\[ {E^2} = { \left(m{c^2} \right)^2} + { \left(pc \right)^2} \]

これが, 有名なアインシュタインの式の本来の形だ。 ところで,質点系の4元運動量の空間成分は質点どうしの衝突に対して運動量保存則を満たすと述べた。 したがって上の式より系全体の運動量が保存すれば \( E \) も保存することがわかる。 これも, \( E \) をエネルギーと解釈してよい根拠になる。


エネルギーの式の意味

アインシュタインの式で, 粒子が静止していて \( p=0 \) であるとすると, 有名な式

\[ E=mc^2 \]

になる。 これは, 質点が静止していても, 質量に比例するエネルギーをもつことを意味する。 このエネルギーを「静止エネルギー」という。また, 質量 \( m \) のことを「静止質量」という。 静止エネルギーの式はニュートン力学の運動エネルギーの式 \( E=\textstyle{1 \over 2} mv^2 \) と似ているが, 速度が光速度になっているので, とんでもない大きさのエネルギーになる。 たとえば 1 g の質量の静止エネルギーは 9 × 1013 J (ジュール) にもなる。

一方, 質点が運動しているときは, 運動エネルギーの分だけエネルギーが大きくなる。 運動エネルギーを含めたエネルギーは, 静止エネルギーの \( \gamma \) 倍になる。すなわち,

\[ E = \gamma m{c^2} = \frac{{m{c^2}}}{{\sqrt {1 - {\textstyle{{{v^2}} \over {{c^2}}}}} }} \]

この式は, 4元運動量の時間成分に \( c \) をかけると得られるが, アインシュタインのエネルギーの式からも出てくる。 すなわち

\[ E = \sqrt {{m^2}{c^4} + {p^2}{c^2}} = \sqrt {{m^2}{c^4} + {\gamma ^2}{m^2}{v^2}} = \frac{{m{c^2}}}{{\sqrt {1 - {\textstyle{{{v^2}} \over {{c^2}}}}} }} \]

この式で \( \gamma m = m' \) と置くと \( E = m'c^2 \) と書けることから, \( m' \) を相対論での運動エネルギーを含めた質量という意味で相対論的質量とよぶことがある。 しかし, いろいろな質量があると混乱を招くので, 単に質量といえば不変量である静止質量を意味するのがふつうだ。

ところで,静止質量には内部エネルギーを含むという重要な意味がある。 それぞれ速度 \( v \) で互いに向かい合って運動する2つの質量 \( m \) の物体が, 合体して質量 \( M \) になったとする (図2)。

図2. 2つの粒子が合体すると, 運動エネルギーが内部エネルギーに変わる分だけ質量が増加する。

物体の運動方向を \( x \) とすると,2つの物体の衝突前の4元運動量はそれぞれつぎのようになる。 最初が時間成分つまりエネルギーを\( c \)で割ったもの, 残りが運動量の空間成分 \( \vec p \) だ。

\[ \begin{eqnarray} &&(\gamma mc,\gamma mv,0,0)\\ &&(\gamma mc,-\gamma mv,0,0) \end{eqnarray} \]

各成分を合計すると全体の4元運動量が求められる。すなわち,

\[ (2\gamma mc,0,0,0) \]

4元運動量の時間成分に\( c \)をかけるとエネルギーになる。 すなわち \( E=2\gamma m{c^2} \)。 これは衝突後も保存される。 いま衝突後の質量を \( M \)とすると, 衝突後は運動量の空間成分が 0 なので \( E=M{c^2} \) が成り立つ。 したがって, 衝突後の質量は\( M=2\gamma m \) となる。 単純な質量の和 \( m+m=2m \)にはならず, 元の物体がもっていた運動エネルギーの分だけ質量が増えるのだ。 では増えたエネルギーはどうなったかというと, 内部エネルギー (熱エネルギーでも何でもよい) として蓄えられたはずだ。 このように, 相対論では内部エネルギーを含めてエネルギー保存則が成り立つことを式で示すことができる。 ニュートン力学では, 合体で力学エネルギーが失われたとしか表現できないのと対照的だ。


合体と逆に, 物体が分裂する場合を考えてみよう。 内部に蓄えられていたエネルギー (たとえばクーロン力による位置エネルギー) によって物体が2つに分裂したとする。 この場合もエネルギー保存則が成り立つので, こんどは物体の運動に使われたエネルギーの分だけ質量が軽くなるはずだ (図3参照)。 このような現象は原子核の核分裂の過程で実際に起きており, 一般に核分裂後の分裂片の質量を合計すると, 元の質量と比べて 0.1 % ほど軽くなることが知られている。

図3. 物体が内部エネルギーで分裂すると, 分裂片の運動に使われたエネルギーの分だけ質量が減少する。

ところで, 熱は分子の運動なので, 物体の温度が上がると分子の運動エネルギーが増加する。 そうすると, 運動エネルギーが増加した分だけ個々の分子の4元運動量の時間成分は増加するはずだ。 いっぽう物体が全体として静止していると, 4元運動量の空間成分の和は 0 だ。 したがって, 物体全体の質量を \( M \) とするとエネルギーの式 \( E=M{c^2} \) が成り立つ。 これより, 分子の運動エネルギーが増えた分だけ物体の質量が増えることになる。 分子運動の速度は光速度に比べてずっと小さいので質量の増加は観測にかからないほど小さいが, 温度が上がると物体はわずかに重くなるはずだ。


光のエネルギー

アインシュタインの本来のエネルギーの式 \( E^2= \left( m{c^2} \right)^2+(pc)^2 \) で静止質量を \( m=0 \) とすると,つぎの式が成り立つ。

\[ E=pc \]

ここで\( p \) は運動量である。 じつは, これは電磁気学で知られている電磁波の運動量とエネルギーの関係式と同じである。 つまり, 相対論で粒子の静止質量を 0 とすると電磁波のエネルギーの式が出てくるのだ。 これから, 光の静止質量を 0 と考えるとよいことがわかる。

あるいは, エネルギーと静止質量の関係式

\[ E = \gamma m{c^2} = \frac{{m{c^2}}}{{\sqrt {1 - {\textstyle{{{v^2}} \over {{c^2}}}}} }} \]

から,粒子の静止エネルギー \( m{c^2} \) が小さくてエネルギーが静止エネルギーよりも大きいと \( \gamma \) が大きくなること, すなわち速度が光速度に近くなることがわかる。 この極限として静止質量が 0 になると, エネルギーが有限であるためには \( \gamma \) が無限大になること, すなわち速度が \( c \) でなければならないことがわかる。 光は, 静止することができず, つねに光速度で走る運命にある粒子なのだ。

光は静止できないので, 「静止」質量が 0 というのは便宜上の表現だ。 じっさい, 光が箱の中に閉じ込められているとすると, 箱の中の光はエネルギーを \( c^2 \) で割っただけの質量をもっている。 たとえば宇宙初期のビッグバンの時期には宇宙の主成分は光であった。 そして, 光の重力が宇宙膨張にブレーキをかけて膨張速度を遅らせていたのだ。


相対論的力学

アインシュタインは, 4元速度や4元運動量を用いて相対論で成り立つ運動の法則を導いた。 詳細は述べないが, 運動する質点は質量が増えたようにふるまうことを示すことができる。 たとえば, 運動する質点に横向きに力を加えると, 質点は \( \gamma m = m/\sqrt {1 - {v^2}/{c^2}} \) の質量をもつ粒子のように応答する。 つまり質量が増えたように見えるのだ。 いっぽう, 運動する質点に対して進行方向に力を加えると, こんどは \( {\gamma ^3}m = m/{\left( {1 - {v^2}/{c^2}} \right)^{3/2}} \) の質量をもつ粒子のようにふるまうことを示すことができる。 加速する方向によって, 見かけの質量が異なるのだ。 どちらにしても, 粒子の速度が光速度に近づくにしたがって見かけの質量が大きくなり, 加速がますますむずかしくなるので, 光速度まで加速するのは不可能だということがわかる。

ところで, 運動している質点のもつエネルギーは \( E=\gamma m{c^2} \) と書けるので, ある速度まで加速するのにどれくらいのエネルギーが必要なのかを静止エネルギーとの差から計算することができる。 たとえば, スーパーマンが光速度の 0.6 倍で運動しているとき \( \gamma \) は 1.25 になる。 スーパーマンの体重が 100 kg だとすると, 25 kg 分のエネルギーが必要だ。 これは, 原爆3万個分くらいのエネルギーに相当する。 スーパーマンはこのエネルギーをどこから得ているのだろう。


付録 ― アインシュタインによる E=mc2 の初等的証明


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T. Fujiwara, updated 2024/11