ISON 彗星 C/2012 S1
2013年2月 藤原隆男
ISON 彗星
2012年9月に,ロシアの International Scientific Optical Network (ISON)
グループの望遠鏡を使って発見された彗星 (C/2012 S1) が,2013年11月〜12月ごろ明るい彗星になりそうです。ISON
彗星の軌道を調べたところ,太陽すれすれを通過する,いわゆるサングレイザーであることがわかりました
(図1参照)。近日点の太陽からの距離はわずか 0.012
天文単位で,太陽の中心から測って太陽半径の2.6倍に相当します。軌道が,1680年の大彗星 (Kirch 彗星)
と酷似していることから,親サングレイザーが以前
(何回か前),太陽に大接近したときに分裂してできた破片どうしではないかと考えられています。
もしそうなら,まだ新鮮なはずなので,1680年と同じような大彗星になる可能性があります。
* 残念ながら,太陽に最接近する直前に崩壊して蒸発してしまいました……
図 1. PanSTARRS 彗星の軌道。上が北側。
明るさの標準予想式によれば,太陽にもっとも接近する11月28日 (日本時間では11月29日)
には太陽のすぐそばで満月なみの明るさで輝くはずです。
日本ではまだ地平線の下ですが,ヨーロッパやアメリカでは,白昼のまぶしい太陽のそばに見えるかもしれません。
図2は,太陽を中心にして,ISON 彗星の天球上の位置を表したものです。上が天の北極の方向になります。
図2. 太陽をかすめる ISON 彗星。時刻は日本標準時 JST。
日本では11月29日の朝,昇ったばかりの太陽の左下に見えるかもしれません。
11月29日の夕方にはかなり暗くなっているはすですが,それでもまだ金星よりも明るく,沈んだばかりの夕日の右上に見える可能性があります。
図3,図4に,明け方 (日の出時) と夕方 (日没時) の ISON 彗星の位置を載せましたので,参考にしてください。
空が暗い,日の出1時間前と日没1時間後の地平線の位置も描いておきました。
図3. 日の出時の ISON
彗星の位置。太陽の位置は11月29日。日の出1時間前の地平線も描いておいた。
図4. 日没時の ISON
彗星の位置。太陽の位置は11月29日。日没1時間後の地平線も描いておいた。
サングレイザーは,太陽に至近距離まで近づいたときに分裂することがよくあります。
1965年の池谷・関彗星は,太陽接近時には白昼でも見え,その後3つに分裂したようです。
分裂後,急速に尾が発達し,1週間ほど経って夜明け前の空に姿を見せたときは 20° ほどの長い尾が見えました
(当時中学生だった筆者は,新聞記事を見て早起きしましたが,すでに暗くなったあとで何も見えませんでした…)。
また,2011年に現れた,池谷・関彗星と兄弟
(ともに Kreutz クロイツ群とよばれ,軌道がほとんど同じなので,共通の母彗星の破片と考えられています)
である
Lovejoy 彗星は,推定数百メートルの小さい彗星でしたが,太陽の表面をかすめたあと蒸発せずに生き残り大彗星になりました
(残念ながら北半球では見えませんでしたが)。
ISON 彗星の大きさは推定直径 3km。大きい方ではありませんが,蒸発してしまうほど小さくもありません。
太陽をかすめたあと分裂しなくても,大量のガスと塵が放出されるので,そこそこの肉眼彗星になるでしょう。
もし分裂したら,数日後の12月上旬には,夜明け前の東の空で長い尾を引く大彗星になると思われます。
東側が開けた観測ポイントを見つけておきましょう。
彗星が暗くなっても追跡したい人のために,星図を載せておきます。
12月18日が満月なので,そのころは月明で見えにくくなります。
明るめの予想では,12月下旬でも 3〜4 等で,肉眼でまだ見えているかもしれません。
図5. ISON 彗星の位置。上が天の北極の方向。
図6. ISON 彗星の位置。上が天の北極の方向。
* このページの図の作成には AstroArts の「ステラナビゲータ」を使用しました。
リンク
彗星とは? … 彗星の解説(藤原)
アイソン彗星 …
吉田誠一氏による ISON 彗星観測まとめのページ
Great
Comet of 1680 (Wikipedia) … 1680年の大彗星。ISON 彗星の兄弟?
池谷・関彗星
(Wikipedia) … 1965年に現れた Kreutz 群 (クロイツ兄弟?) のサングレイザー
ラヴジョイ彗星
(Wikipedia) … 2011 年に現れた Kreutz 群 (クロイツ兄弟?) のサングレイザー
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