Hale-Bopp 彗星がやってきました。 昨年の百武彗星に続いてまたまた大彗星になりそうです。 この彗星は,1995 年7月にアメリカのアマチュア天文家 Alan Hale 氏と Tom Bopp 氏によって発見されました。 他の彗星と違っていたのは,発見されたとき彗星がまだ木星軌道の外にいたことです。 ふつう彗星は,太陽からこんなに遠いと暗すぎて小型の望遠鏡では見えないのですが, この彗星はやたら明るかったため,太陽に近づくずっと前に発見されたというわけです。 発見当時の明るさは,同じような位置にハレー彗星を置いた場合の百倍もありました。
一般に,彗星の本体は直径 10km 程度の氷を主成分とする天体です。 これが太陽系の内部に入ってくると, 太陽に照らされた表面から水蒸気や二酸化炭素とともに種々の揮発成分 (ガス)が吹き出すようになり, コマというぼうっとしたものが見えてきます。 さらに太陽に近づくと,表面から出たガスは太陽風に流されてプラズマの尾となり, ガスとともに噴出したダスト(塵)は太陽からの光の圧力で押されて幅広いダストの尾となって, 彗星らしい姿を見せるようになります。 Hale-Bopp 彗星は本体のサイズが直径数十 km と推定されています (ちなみに,ハレー彗星の本体は直径約 10km,百武彗星の本体は推定直径 2〜3km)。 この推定が正しければ Hale-Bopp は巨大彗星です。明るいのもうなずけます。
Hale-Bopp 彗星が太陽に最も近づくのは4月1日で, そのときの太陽からの距離は 0.91 天文単位(1天文単位は地球の平均軌道半径)です。 これは,百武彗星の 0.23 天文単位と比べれば,あまり近いとはいえません。 また,その前の3月下旬に地球との距離が最も小さくなります。 地球からの距離は約 1.3 天文単位で,これも残念ながら近いとはいえません。 それでも,もともと明るい彗星なので,大彗星になることが期待できます。 明るさの推定はむずかしい(なにしろ相手は水物です)のですが, 最近の光度の推移から判断すると,接近時の明るさは 0 等前後になりそうです。 ひところ騒がれたような木星なみ(-2 等)の明るさには届かないようですが, 大彗星になることはまちがいないでしょう。
昨年の百武彗星は,たまたま地球のすぐそば(わずか 0.1 天文単位)
を通ったために明るく見えましたが,
今度の Hale-Bopp 彗星は,
もともとたいへん明るい彗星をちょっと離れた場所から眺めるという状況になります。
Hale-Bopp 彗星の全体の光度は百武彗星と同じくらいですが,
見かけがコンパクトになるので,
百武彗星に比べればずっと明るく感じるでしょう。
また,位置の変化がゆっくりとしているので,長いあいだ明るさを保ちます。
3月,4月の接近時には肉眼でもはっきりと見えますが,
高度が低いので,市街光がないこと,空が澄んでいること,
障害物(山や建物)がないことが観望の条件になります。
高度が 10 度以下になると大気による減光がひどくなるので,
空の条件がよくても見るのがむずかしいでしょう。
双眼鏡(口径 35mm〜50mm のもの)を使うと彗星の迫力ある姿が楽しめます。
望遠鏡でみると,頭部の細かい構造まで見えるでしょう。
望遠鏡で見るときは,視野を明るくするために倍率をできるだけ低く
(20〜30倍)します。
目の中心部は暗い天体に対する感度が鈍いので,
暗い部分まで見るときは目の中心からちょっとずらして見るのがこつです。
(1997年2月5日記)
すでに0.5等ぐらいの明るさ(デネブやアルタイルよりも明るい!)で
夜明け前の東北東の空に輝いています。肉眼で数度の尾が見えます。
3月下旬の光度は -0.5 〜 -1.0 等になりそうです。
絶対等級(太陽から1天文単位離れた彗星を1天文単位の距離から見たときの明るさ)
では18世紀に現れた彗星以来の大彗星です。
(97/3/2 記)
0等よりも明るくなってきました。まもなく夕方の空でも見えるようになります。
日没後の北西の空の地平線近くを探してみてください。
(97/3/11 記)
−0.5等よりも明るくなってきました。夕方の北西の空で光っています。 カシオペア座の下の方です。にじんだように見える明るい星がそうです。 まわりに明るい星がないので肉眼ですぐにわかります。ダストの尾が右に出ています。 これから明るくなりながら少しずつ高度が高くなっていきます。 このぶんだと3月下旬には−1等を越えそうです。 月の影響がなくなる来週以降が見ごろです。 (97/3/17 記) まだ見ていない人へ 夕方の空にすばらしい姿を見せています。 日没から1時間ほどして,空が暗くなると見えてきます。 東京では7時前,関西では7時過ぎ,九州では7時半ごろから見えます。 西(太陽が沈んだあたり)から30〜40度右手の方向です。 高度は約20度(手をパッと開き,腕を伸ばして見たときの親指と小指の間隔が約20度)です。 明るいのですぐにわかります。 尾は右上に伸びています。 しばらくすると沈んでしまいますので時刻を間違えないように。 4月中旬には月がまぶしくなってきますので, それまでの間に世紀の大彗星をよく見ておいてください。 (97/4/2 記)